公庫の記入例をマネして申し込んだらこうなった!

公庫の創業計画をマネてはいけない3つの理由 日本政策金融公庫

これから創業融資を受けたいと考える方とって、一番の難関となるのが「事業計画書の作成」です!

そんな方にとって最も頼りになるのが、日本政策金融公庫がHPに掲載している「創業計画の見本」ではないでしょうか?

しかし、これを鵜呑みにしてしまうと後で「こんなはずじゃなかった」ということになりかねません。

ここでは、「公庫の計画の見本をマネした結果」と「なぜ、日本の創業計画書をマネしてはいけないのか?」の理由についてお話しします。

公庫の計画見本をマネしたらこうなった

融資申し込みの概要

最近、日本政策金融公庫ではHPの中で数多くの「創業計画書の見本」を掲載しています。

従来は3パターンぐらいしかなかったのですが、現在では記入例は9業種9例にまで増え、さらには「月別収支計画書記入例」や「資金繰り表記入例」まで掲載しています。

以前に比べるとその充実ぶりは、いたせりつくせりという感じになっているのですが、その内容については相変わらず「?」という部分も少なからず見受けられます。

なので私の事務所では、この計画書の記入例をそのままマネして使うことはお勧めしていません。

しかし、以前、私のところに相談に来た方がこの記入例をほとんどマネて融資を申し込むということをしたことがありました。

その理由は「この程度なら、自分でも作れそうだから」というものです。

もちろん、集客方法やその他の細かな状況については、記入例とは異なりますが、基本的な事業プランやオペレーションなどについては、ほぼ公庫の見本をマネたものでした。

その方の当時の計画の概要は以下のとおりです。

■ 業   種 : 居酒屋
■ 自己資金額 : 300万円
■ 事業経験   : 3~4年
■ 創業の理由 : 以前から飲食店の経営をしてみたかった
          必要な資金が貯まったのと、理想的な物件が見つかったから
■ 予想客単価 : 4,000円(夜)
■ ターゲット : サラリーマン
■ 集客のウリ  : 定期的に知り合いのマジシャンによるマジックショーの開催
■ 借入希望額 : 600万円

公庫の洋風居酒屋の記入例と比較してみると、驚くほど似た内容になっているというのがお分かりいただけると思います。

また、収支計画についても、ほぼ公庫の計画見本に沿ったものとなっていました

融資の結果ついて

このような形で、その方は公庫の新創業融資制度に600万円の申込みをしたわけですが、結果についてはといえば・・・

融資額「0円」 つまり完全な否決となりました。

その結果について本人が担当者に確認したところによれば、以下のような回答があったとのことでした。

● この方法で集客できるかについて疑問がある。
● 立地的に懸念がある。
● 具体的にどのようなオペレーションで運営するのかが不明

しかし、本人は、公庫の見本とほぼ同じ条件、内容で申し込んでいるので、本来であればなぜそれが否決になるのかが意味不明です。

このように公庫の見本通りに計画を作っても、必ずしも融資に通るわけではないということがお分かりいただけるかと思います。

融資が断られた理由について

 

 

 

 

では、同じような計画を作ったにも関わらず、なぜ今回の申込みがお断りとなったかについて考えてみたいと思います。

事業に対する「やる気」が感じられなかった

日本政策金融公庫などの政府系の金融機関では、「本人の事業に対するやる気」がどれだけあるかに重点をおいた審査が行われます。

特に創業融資ではその傾向が強く、もし、これがうまく伝わらない場合には審査にも影響が出ることになります。

しかし、日本政策金融公庫の創業計画の見本では、「前からしてみたかった○○の事業をしてみたいけど、お金が足りないから貸して!」といっているのと大差ありません。

今回の申込み人の計画も、これと同じ程度の動機で申し込んでいるため、創業に対する強い思いが感じられないと判断された可能性が高いです。

したがって、この箇所については、記入例程度の内容ではなく、しっかりと「自分の熱意」が伝わるように内容を書く必要があるといえます。

計画の内容に説得力や根拠がない

今回のケースの申込みでは、公庫の担当者から「集客方法やその可能性に疑問がある」と指摘されてたように、この程度の内容では「なぜ集客ができるのか?」といった根拠がほとんど明確となっていません。

計画の中では「知り合いのマジシャンを呼んで、定期的にマジックショーをする」となっていますが、まず、はじめの段階での集客をどうやって確保するかが不明です。

また、仮にマジックショーをしたとしても、それがどの程度集客に貢献するのかといったことも書かれていません。

このように説得力と実現の可能性が数字として明確になっていない計画では、審査での評価は得られません。

金融機関を納得させるためには、次の3点が書けているかどうかが重要なカギとなります。

販売計画のポイント

◆  どんな方法でお客を集めるのか?(集客)
◆ それがどの程度、売り上げに寄与するのか?(目標)
◆ なぜそれで売り上げが上がるといえるのか?(根拠)

具体的にどのような計画にすべきなのかについては、「金融機関も認めた!創業融資を引き出す売上げ計画の作り方」ご参照いただければと思いますが、このように販売の部分で根拠のない計画では融資は通らないということに注意が必要です

開業の運営体制に問題がある

今回の担当者からの指摘では「具体的にどのようなオペレーションで運営するのかが不明」という点があげられましたが、事業は開業準備が整っていればそれでよいというわけではありません。

融資を受けた資金は、その後の利益で返済するわけですので、開業後にどのような運営方針で営業をするのかは非常に重要なポイントとなります。

具体的には
● どのようなメニューで
● どのような人員で
● どのようにサービスを提供するのか?
などといったことです。

これらの点ついて実際の作業レベルでのオペレーションや、運営の方向性が見えていないと計画の信ぴょう性はないということになります。

その他

以上のこと以外にも、計画を信ぴょう性のあるものと評価されるためには、次のようなことについても計画に反映させる必要があります。

商圏調査

その店が本当にその地域でやっていけるのか?を見極めるためには、周辺地域の状況についての調査が欠かせません。

通常は、お店を出店する予定地の半径200m程度について、そこがどのような環境となってるのかについて調査します。

調査すべき項目の例としては次のようなものがあります。

◆ 電車の駅や道路といったインフラの状況
◆ 主要施設の乗降客数
◆ その地域のおよその世帯数、人口比、年齢層、男女の別
◆ デパートやショッピングモールといった集客施設の状況

これらは鉄道会社のHPや国勢調査 都道府県・市区町村別統計表、または各市町村のHPなどを見ればそのエリアでのデータを得ることができます。

これらの資料を活用することにより、およその見込み客の数や構成を推定することができるので、これをもって計画の基礎的な根拠とします。

競合調査

商圏調査と同じく重要となるのが、「競合調査」です。

これは自分で設定した営業エリアについて、同種または類似のお店がどのくらいあるのかについて調査します。

調査の方法としては、まずは住宅地図や検索などで競合店舗を地図にプロットして調べますが、その際に欠かせないのが「自分の足で歩いて調べる」ということです。

実際に歩いて調べるというと大変そうに思われますが、半径200~300ḿ程度の範囲であれば2~3時間もあればできてしまいます。

これは確かに面倒な作業ではあるのですが、こうして作成した資料は金融機関に対して強いインパクトを与えることができるとともに、いざ開店してみたら同業者が強くて商売にならないという事態も防ぐことができます。

どんな売り方をするのか?(販売方法)

販売方法については、単に店舗での販売などとするのではなく、例えば「近辺には高齢者が多いため、これをターゲットにした〇〇のような商品を開発して販売する」とか、「〇円以上の購入者については宅配を行う」などといった、その店独自のオリジナリティのある戦略が求められます。

もし、チラシの見本などがあれば、金融機関に対してイメージを伝えやすくなります。

どうやってお客を集めるのか?(集客)

集客については、単に「店舗のHPを作成する」、「周辺の家にチラシをまく」といっただけでは、集客ができる根拠にはなりません。

もし、HPを作るのであれば、「どんな手法でアクセスを増やすのか?(たとえばリスティング広告の活用)」、「それによりどの程度の効果が見込めるのか?」、「そのためにどのくらいの予算が必要なのか?」などといった実際の戦略や数値レベルにまで落とし込むことが求められます。

例 リスティング広告利用の場合

一般的な反応獲得率        〇%
最終的な見込み客獲得率 〇%
予算の目安       〇万円
想定される顧客獲得数  〇人

事業計画書のボリューム

今回のもう込みのケースでは、公庫の記入例見本を参考にしたため、計画書のボリュームも本体部分1枚のみを提出するという、非常に簡素なものでした。

けれど、普通に考えればその程度ですべてを書ききれるわけがないということは、容易にお分かりいただけると思います。

もし、以上に挙げたポイントについて詳細にまとめるとすれば、そのボリュームは少なくともA4番の用紙で4〜5枚以上となります。

また、それ以外にも月別の収支の予測をまとめた収支計画表なども必要となります。

例えば、当事務所の場合には、創業計画書として次のような資料を提出しています。
参 考 【新創業融資制度】の正しい使い方。すべての項目を完全解説!

〇 創業計画書の用紙
〇 別紙に書いた計画の内容
〇 予定の商圏や立地場所の地図
〇 店舗がある場合には店舗の写真
〇 設備等の見積書

もちろん、数が多ければよいというわけではありませんが、相手を納得せるものを作ろうとすればこのくらいのボリュームになるのが普通です。

したがって、計画を作るときには、公庫の見本に縛られるのではなく、どうすれば金融機関に自分の思いを伝えられるのか?ということを考えて作成する必要があります。

まとめ

ここでは公庫の創業計画の記入例をマネして融資を申し込んだ方のケースについてご紹介しましたが、このように単に記入例をまねただけでは融資は出ないことがおわかりいただけたかと思います。

なぜ、公庫がこのような計画を見本として公開しているのかは不明ですが、まともな融資を得るのであれば次の点に注意して計画を作るべきでしょう。

◆  本人の事業に対するやる気が伝わる内容とする。
◆ 説得力のある内容となるように工夫する。(特に集客)
◆ ある程度、ボリュームのある計画にする。
◆ 商圏・競合調査などの基礎的なデータを用意する。

なお、119番資金調達NETでは、新規開業資金の申込みのサポートの他、、このブログではご紹介していないテクニックや注意点についても、直接、その方の状況にあわせてアドバイスしています。
随時、初回の相談無料でご利用いただけますので、お気軽にご相談ください。

 

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プロフィール
融資コンサル
引地 修一

119番資金調達NETの代表引地です。
創業者・中小企業経営者の方向けに、 融資の申込みや事業計画書の作成計画・経営の改善などのサポートをしています。これらに関するご質問であればたぶん90%くらいの確率で、回答できると思いますので、お気軽にご相談ください。

【主な経歴】
・2005年Ichigo(一期)行政書士事務所を開設。
・2008 「確実に公的創業融資を引き出す本」を出版。※6刷増刷中
・2008 ドリームゲート「資金調達部門」最優秀アドバイザーを受賞
・2011 「銀行格付けアップ術」出版
・2014 「飲食開業のための公的融資獲得完全マニュアル」
・2021現在、累計相談者数2,000人を突破。

【持っている資格】
行政書士、宅地建物取引主任、事業再生アドバイザー、品川区武蔵小山創業支援センター公認アドバイザー

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