皆さんは、最近はやっている資金調達の方法のひとつに「少人数私募債」というものがあるのをご存知でしょうか?
「名前は聞いたことがあるけど、よくわからない」という方が多いと思いますが、実はこれ、うまく使うと資金繰りを劇的に改善する効果があるんです。
ここでは「少人数私募債」の特徴と使い方についてご説明します。
目次
少人数私募債とは?
「少人数私募債」とは、中小企業が取引先の経営者や知人に、自社で発行した債券(私募債)を買ってもらうことにより、資金を調達しようというもので、いわば、大企業が行っている社債のミニ版のようなものです。
最近では、金融機関から思うように融資をうけられない企業などで、手軽にできる資金調達の手段として注目を集めています。
発行のメリットとデメリット
「少人数私募債」の発行には次のようなメリットとデメリットがあります。
発行のメリット
② 金融機関の融資枠が一杯になっている場合でも、利用できる。
③ 担保や保証人が不要。
④ 原則、行政への届出や登記などの手続きが不要。
⑤ 調達が成功した場合には、金融機関の格付けが上がる可能性がある。
⑥ 自分の事業の内容を投資家に理解してもらえる。
発行のデメリット
② 引受先が身の回りの方に限られるので、十分な調達が難しい。
③ 担保や保証がないため、信用面のリスクが高く、引受手を見つけにくい。
④ 募集にあたっては、事業計画書の作成と定期的な報告が必要となる。
⑤ 引き受けた私募債を他人に譲渡する場合には、一定の制約がある。
募集・発行の主な条件
「少人数私募債」は、原則として以下の条件を満たすだけで発行することができます。
② 同じく取締役会で「募集要項」(私募債の概要)について決議すること。
③ 1回あたりの募集人数は49人までとすること。※2
④ 募集を引き受ける人の中に、金融機関やファンドなどのプロをいれないこと。
⑤ 社債一口の最低額が、発行総額の50分の1よりも大きいこと※3
⑥ 社債の発行総額が1億円未満であること。
➆ 発行元は会社であること。※4
※1
取締役会がない場合には、株主総会の決議でも可。
※2
この49人とは、例えば100人に声掛けをしてその結果が49人以下だったということではダメで、初めから声掛けできる方が49人までということになります。
※3
これは例えば、社債を総額3,000万円発行する場合には、1口の最低額は3,000万円の50分の1である60万円よりも大きくなければならない(60万円ではダメ)ということを意味します。
※4
以前は株式会社のみが発行できましたが、会社法の施行によりすべての会社で発行できるようになりました。
少人数私募債の発行
少人数私募債の計画~発行までの流れ
少人数私募債の発行は、以下の手続きで行うことができます。
② 取締役会決議または、これに変わる決議(取締役会のない会社)
③ 募集要項・社債申込証の作成
④ 社債引受者の募集
⑤ 社債申込証の受領
⑥ 社債申込についての審査
⑦ 募集決定通知書の送付
⑧ 社債預り証の発行
⑨ 社債管理台帳の作成
私募債の注意点
1.事前の準備を十分に行う。
少人数私募債の発行を計画しても、中には十分な資金の調達ができない場合もあります。
その主な理由としては
◆ 資金的な余力のない方を引受予定人に選んでいる。
◆ 発行する私募債を魅力的なものにする努力をしていない。
以上の3点に集約されることが多いようです。
私募債は、担保や保証などの裏付けに頼らず行うものですから、当然、これらの準備が不十分な場合には失敗の確率が高くなります。
そして、最終的には「発行はしてみたけど、全然、集まらなかった」ということになりがちてす。
本来、私募債は無理やり買ってもらうものではなく、会社の発行趣旨に賛同してもらった中で引き受けてもらうものです。
そのためには十分な根回しも必要ですが、私募債そのものを魅力あるものとしなければなりません。
2.金利はやや高めにつける。
少人数私募債の募集・発行では、利息制限法等の法律に違反しない限り、金利を任意に設定することができます。
そもそも、少人数私募債は無担保・無保証で行うため、引受人にとっては市中金利程度ではリスクの割に魅力がないということになります。
そのため、一般的な発行では、3~5%程度の金利を設定するのが一般的です。
とはいえ、あまり高い金利ではその後の資金繰りを苦しくしてしまう一因ですので、5%程度を上限とするのがよいでしょう。
3.プレミアを用意する。
少人数私募債の募集では、対象の事業に関するサービスや商品などの他に、プラスで提供できるものがあるとさらに有利に進められます。
プレミアの内容としては、自社製品のプレゼントや食事会への招待、通常価格からの割引などが考えられますが、気をつけてほしいのが、本来の事業に関係ないものをつけないということです。
このようなプレミアでは、事業への興味がそがれるとともに、引き受けてもらうためにあるものをくっつけたという感じが否めません。したがって、プレミアをつけるときには募集する事業に関するものを用意してください。
少人数私募債の成功事例
当事務所ではこれまで多くの少人数私募債の発行のお手伝いをしてきましたが、その中からいくつかの成功例をご紹介します。
1.1億4,700万円の調達に成功した不動産会社の例
不動産販売を営むY社では、販売が好調なのは良いものの物件の仕入れ資金が追い付かず、銀行以外からの資金調達の方法を考えていました。
「1~2月の間で資金の調達ができる方法で」という条件にあわせて検討したところ、私募債が最適ということで7,000万円と7,700万円の2回に分け、計1億4,700万円の資金調達に成功しました。
2. ターゲットを見直して成功したコーチングサービス会社の例
企業向けにコーチングサービスを実施しているS会社は、新企画の展開のために必要な資金を私募債で調達することとしました。しかし、いざ実際に募集をしたところ思った以上に引き受け手が見つかりませんでした。
原因を探したところ、S社では企業の社員向けのコーチングのみを提案していたため、なかなか申し込みにつながらなかったことに着目し、社員対象のサービスだけではなく経営者本人や経営者が指名する特定の個人を対象としたサービスを追加しました。また、回数券制とし、利用者の利便性を向上させました。
その結果、申し込み規模者が増え、当初希望額の約90%の調達に成功しました。
3. 本業以外の特徴を生かして成功したM建設の例
そこで相談を受けた当事務所でM建設の事業内容を見直してみたところ、同社ではオリジナルの技術を使った「耐震診断サービス」ができることに着目。私募債の申し込みをしてくれた方に対して、このサービスを無料で行うことをプレミアムとして募集した結果、当初希望額の85%調達に成功しました。
4. 私募債の発行により財務内容を改善し、銀行評価をあげた例
婦人服の企画販売を行っているAラインでは、代表者への報酬の一部を未払いにし続けた結果、社長から会社への貸付金が多額となり、これがその会社の銀行評価を下げる要因となっていました。
そのため当事務所では、代表者→会社への貸付金の一部を資本金に振り替えるとともに、残りで私募債を引き受けることにより、税務上の扱いが明確になるとともに、「資本が増えて債務が減る」という好結果により、銀行格付けを向上させることに成功しました。
「少人数私募債」は、以上のようにしっかりとした仕組み作りをすることにより、効果的に使うことができる資金調達の手段ですが、慣れていないとその設計や組み立ては難しいと思います。
Ichigo(一期)行政書士事務所では、随時、無料相談を行っていますので、もし、少人数私募債のご利用をお考えならば一度、お気軽にご相談ください。