和菓子屋の事例にみる、経営再建の顛末について

こんにちは。当サイトを運営しているIchigo(一期)行政書士事務所の引地と申します。

今回から、経営者の方向けに私の身の回りで起こったことや経営に関する話題をブログ形式でお話しさせていただきますので、よろしければ経営のご参考にしてください。

第一回のテーマは「和菓子屋の事業再生の顛末」についてです。

 

有名店の実態は?

すこし前に、知り合いの方から「自分の知り合いの和菓子屋の相談にのってほしい」という依頼があり、相談者の方へお話を伺いに行ってきました。

相談の内容は、どうやら
「目先の資金繰りをどうにかできないものか?」
ということのようです。

よく話を聞いてみると、その和菓子屋は少し前から売り上げが下がり始め、現在では仕入れや職人への給料も危なくなっているとのこと。

そのお店は、都内の商店街の一角にある和菓子屋でテレビにもたびたび取り上げられており、デパートなどにも出店している、いわゆる老舗の和菓子屋です。

それがなぜ、こんなことになってしまったのか?

その原因を探るため、何はともあれ、店の社長から話を聞くことにしました。

 

店に到着して、しばらく外から様子を伺ってみると、店構えはさほど大きくはなく、店先には2~3名のお客はいるものの盛況という感じではありません。

建物は4階建てですが、店舗として使っているのは1階だけのようです。

その後、案内された2階の応接室で社長の話を交え、決算書を見ると次のようなことがわかりました。

〇 3期前までは黒字が確保できていたが、その頃から売上げが低迷し始め、直近2期については連続で赤字を計上している。また、この頃からテナントの整理をし、最近の2年間で5店舗ほどを閉鎖した。現在は4店舗が残っているものの、黒字になっているのは本店のみとなっている。

〇 売り上げは、以前は5億円ほどあったが最近では3億円台までに減少している。

〇 金融機関からの借入れは 約2億8000万円ほどあり、5つの都市銀行が借入先となっているが、そのすべてについて2年前からリスケジュールを実施している。

〇 担保に入っている不動産は本店の土地と建物のみであり、他に不動産はなし。

〇 担保の状況は、根抵当権の5千万円と抵当権の1,000万円の計6,000万円だが、土地建物の評価額については不明。

 

以上が関係資料と本人からのヒアリングによりわかったことでしたが、一番の問題は当面の資金繰りをどう乗り切るかということでした。

本人いわく、「このままでは2ヶ月先の支払いかできなくなるかもしれない」とのこと。

また、社長本人としては、できれば事業を売却して、借金を整理したい気持ちがあるようです。経営不振の原因は、最近の和菓子離れによるところが大きいようですが、本人に事業への熱意がなくなりつつあるのも不振の一因のようでした。

また、それに追い打ちをかけて最近のコロナウイルスの影響があり、売り上げは普段の6割程度(当時)にまで減少。こうなると、もはや単純な資金繰りの話ではなく、事業再生の領域の問題です。

とはいえ、すぐに事業の売却ができるわけでもないため、まずは、借入れによる現状維持が可能かの確認を取り急ぎすることとなりました。

有名店というとテレビなどで取り上げられる華やかな面ばかりを想像しがちですが、その裏側ではこのような状況になっていることが珍しくありません。

 

予想以上の危機的な状況!

そこで、まず目先の問題を解決するために思いついたのが、日本政策金融公庫から「コロナ特別融資」を利用して借入れができないかということでした。今回のケースでは、売り上げの不振はコロナの影響もあるため、この要件に当てはまりそうです。

もし、この制度を利用して2,000万円ほどの借り入れができれば、あと半年ぐらいはもちそうだという本人からの話もあったため、できればぜひ、利用したいところです。

しかし、検討の結果、この制度による借入れは、かなり難しいだろうということがわかりました。

その原因は
・ この会社が、日本政策金融公庫からの借入れをリスケジュールしていること
・ 税金の未納があること
の2点です。

 

コロナ融資はリスケジュールをしていても利用できる場合がありますが、それは他の金融機関からの借入れをする場合です。今回のような現在のリスケジュール中の金融機関からの借入れは、原則、できません。

では、信用保証協会のセーフティネットの4号、5号や危機管理保証制度などは使えないかということも検討しましたが、こちらについても難しそうです。

なぜなら、この会社は信用保証協会付融資についても、リスケジュールをしていたからです。

 

また、税金の未納も借入れの大きな障壁となりました。

通常のコロナ融資制度による借入れの場合、税金の未納があっても、支払いについて税務署と分割協議ができていればOKとなる場合があります。私の別のお客さんでも、この方法で1,000万円の融資を受けることに成功しています。

しかし、今回のケースでは、多額の学の税金未納があるにもかかわらず、何の手立てもしていませんでした。

 

社長からでた、意外なプランとは?

以上のような状況から、社長に対して私からは

「いまの状況では、金融機関から普通に融資を引き出すのはかなり厳しいと思う。
とりあえず、政府系の金融機関や信用保証協会、これまでに付き合いのある金融機関へ状況を説明し、そのうえで事業再生協議会の関与が可能かについても打診すべき。
ただこれらが、ダメだった時のことも考えて別の対策も考える必要があるでしょう。」

という提案をさせていただきました。

まずは、必要なのは目先の資金です。

とはいえ、万が一、融資が借りられたとしても、現状のままではジリ貧であることは変わらず、また、借りた資金もいずれは運転資金に消えてしまうことは目に見えています。リストラをすれば多少の延命になるとは思いますが、それも時間の問題です。

そのため、この状況を根本的に変えるためには
〇 売上げ回復のための抜本的な対策するか?
〇 事業の売却をするか?
しかないということになります。

しかし、事業そのものへの熱意がなくなりつつある社長の元では、はじめのプランは難しいとおもわれたため、では、2番目のプランにもっていくまでに、どうやって資金をつなぐか?

そんなことを考えているとき、社長から意外な提案がされました。

「工場をいったん売却して、それをリースバックしたらどうだろう?」

工場を売却するという発想にも驚きましたが、何よりも社長がリースバックという言葉を知っているということに驚かされました。

 

しかし実は、これは社長自らが考えたものではなく、投資系のコンサルからの入れ知恵だったのです。

その内容は、現在、稼働率が落ちている工場を他社に売却し、それと同時にその工場を自分で借り受けて製造を続けるというものでした。また、もし売却先と商売上のタイアップができれば、自社製品だけでなくその売却先の会社の商品の製造もできるようになるという寸法のようです。

もし、本当にこれが可能になれば、社長の会社には製造手数料が入るため、売り上げは低くなっても利益は増える可能性があります。また、今まで通りに営業を続けることもできます。

けれど、これにはいくつかの問題があります。

まず、その一つ目が「そんなに都合よく売却先が見つかるか?」ということです。

通常、事業のタイアップには1~2年の時間がかかりますが、今回のようにリースバック付ということならば、さらに長い時間がかかることが予想されます。どう考えても、その間をもたせるだけの資金がありません。

そして問題の二つ目が「その後の製造コストが高くなる」という点です。

このプランを実行した場合、これまでは自社で作っていたものを、その後は買収先に委託して製造をしなければならないこととなります。そうなるとその分のコストがずっとかかり続けるため、今まで以上に利益が出にくい体質となります。

それ以外にも、「本当に、これまでのように自由に工場を使えるのか?」や「条件があうのか?」、「ずっと借り続けられるのか?」なども考えなければなりません。

ましてや、これから声かけをしようという段階のため、パートナーを見つけ、プランを実現させるためにはまだかなりの時間と労力が必要です。

 

提案に対して社長のとった行動とは?

そこで私からは、最終的に次のことを提案しました。

〇 コロナ特別融資や信用保証協会の危機管理保証の申込みはすぐに行う。また、それと同時にプロパー融資が使えないかついても、取引先に金融機関に打診してみる。

〇  本店の土地建物の評価額をキチンと確認し、もし、担保に余力があるならばその余枠を使って追加の借り入れができないかについても検討する。

〇 親族や知り合いの中に、借入額の肩代わりができる人間がいないかを探し、もし可能であればその方へ本店の建物のリースバックをお願いすることを検討する。

〇 これらの方法と並行して、リースバック&OEMの候補先を探す。

〇 これらを試してみて難しい場合には、早めに事業再生の方向へ切り替え、再生協議会の支援が受けられるかを検討する。

社長の意を汲んでリースバック案を一部取り入れた、折衷案というわけです。

けれど、社長は、リースバックのことばかりを考えて、なかなか目先のことに取り組もうとしません。まず、最優先すべきは当面の資金繰り対策なのですが、リースバックの話がまとまれば、それだけでうまくいくという思考停止の状態です。

このように経営が切迫している会社では、すぐに打てる手が少ないというのもありますが、それだけでなく、経営者が目の前の事実から目をそらし、自分の都合のよい方にしか動かなくなるということが往々にして起こります。

しかし、経営者が優先してすべきことをしなければ、会社の再建はより難しくなってしまいます。

今後この案件がどのようになっていくかについては、もうしばらく様子を見なければわかりませんが、当面の資金繰りに失敗すれば事業の閉鎖や物件の競売ということになるでしょう。

以上のように、危機的な状況の会社の再建には、適切な対策の順序と経営者の決断の2つが必要となるわけですが、これを間違ってしまうと、最後には借金しか残らないということになってしまいますのでご注意ください。

 

119番資金調達NETでは、融資の申込み、事業計画プランの作成、経営改善などにつき、直接、その方の状況にあわせてアドバイスしています。
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プロフィール
融資コンサル
引地 修一

119番資金調達NETの代表引地です。
創業者・中小企業経営者の方向けに、 融資の申込みや事業計画書の作成計画・経営の改善などのサポートをしています。これらに関するご質問であればたぶん90%くらいの確率で、回答できると思いますので、お気軽にご相談ください。

【主な経歴】
・2005年Ichigo(一期)行政書士事務所を開設。
・2008 「確実に公的創業融資を引き出す本」を出版。※6刷増刷中
・2008 ドリームゲート「資金調達部門」最優秀アドバイザーを受賞
・2011 「銀行格付けアップ術」出版
・2014 「飲食開業のための公的融資獲得完全マニュアル」
・2021現在、累計相談者数2,000人を突破。

【持っている資格】
行政書士、宅地建物取引主任、事業再生アドバイザー、品川区武蔵小山創業支援センター公認アドバイザー

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