これまで、企業が融資を受けるためには、経営者の個人保証が条件となりましたが、近年では、経営者の保証を必要とない融資や既存の融資の保証の解除が進んでいます。
経営者保証解除をてもらうには「経営者保証ガイドライン」で示されている解除のための3原則を遵守する必要がありますが、抽象的な表現となっているため、「具体的に何をすればよいのか?」がわかりにくいとも言えます。
この記事では、ガイドラインの概要やそれぞれの原則の意味、具体的に取るべき対策について、事例でわかりやすく解説します。
目次
「経営者保証ガイドライン」とは?
「経営者保証ガイドライン」(以下、「本ガイドライン」という)は、融資の借入れについて経営者の保証を外すためルールや保証の取り扱について定めた準則です。ただし、これ自体に強制力はないことに注意が必要です。
ガイドラインの成立と目的
「経営者保証に関するガイドライン」は、中小企業団体及び金融機関団体の関係者、学識経験者等により構成される研究会が制定したもので、2013年12月5日に公表され、2014年2月1日から適用されています。
※ 経営者保証ガイドライン
本ガイドラインは、保証契約の在り方等を示すとともに、保証債務の整理について、公正かつ迅速に行うための準則として定められ、この中に経営者の保証をはずす要件も記載されています。
ガイドラインの位置づけ
本ガイドラインは民間団体により制定された準則であるため、法的な強制力はありません。そのため、個別の融資について、保証を外すかどうかは金融機関の判断によります。
とはいえ、金融庁の通達(平成25年12月11日)によりガイドラインに基づく対応を図るべき旨が発出されていることから、金融機関としてもこれを無視することはできない状況となっています。
ガイドラインが適用される対象
本ガイドラインが適用されるのは、以下の対象者に限られます。
【ガイドラインの適用対象者】
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➢ 中小企業の代表者(個人事業主を含む) |
なお、やむを得ず事業承継予定者に保証の提供を求める場合には、現経営者に健康上の理由があることが必要です。
そのため、それ以外の場合は、原則、事業承継予定者の保証は不要となります。
経営者保証解除のための3つの要件
本ガイドラインでは、経営者保証によらない融資を適用するための要件として、以下の3つを上げています。
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▲ 法人と経営者との関係の明確な区分・分離 |
以下では、それぞれの要件について解説します。
法人と経営者との関係の明確な区分・分離
「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」とは、法事と経営者の経理と所有をはっきり区別することを意味します。
そのため、経営者については、次のような対応が求められます。
▲ 役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付などについては、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備する
▲ 経営者が法人の事業活動に必要な本社・工場・営業車等の資産を所有している場合、そのような資産については経営者の個人所有とはせず、法人所有とする
▲ 自宅が店舗を兼ねている、自家用車が営業車を兼ねているなど、明確な分離が困難な場合においては、法人が経営者に適切な賃料を支払う
▲ 事業上の必要が認められない法人から経営者への貸付は行わない
▲ 個人として消費した費用(飲食代等)について法人の経費処理としない
▲ これらの対応を確保・継続するため、会計参与の設置、社内管理体制の整備や、「中小企業の会計に関する基本要領」等に沿った計算書類の作成などが求められる。
なお、この条件では
法人と経営者の間の資金のやりとりが、「社会通念上適切な範囲」を超えない
ことが求められます。
なお、この「社会通念上適切な範囲」については、法人の規模、事業内容、収益力等によって異なるため、必要に応じて公認会計士、税理士等の外部専門家による検証結果等を踏まえ、金融機関が個別に判断するものとされています。
財務基盤の強化
「財務基盤の強化」については、経営者個人の資産を回収の引き当てとしなくとも、法人のみの資産・収益力で借入の返済が可能と判断し得る財務状況が期待されています。
具体的には、以下のような状況が考えられます。
▲ 業績が堅調で十分な利益(キャッシュフロー)を確保しており、内部留保も十分である
こと
▲ 業績はやや不安定ではあるものの、業況の下振れリスクを勘案しても、内部留保が潤沢
で借入金全額の返済が可能と判断し得ること
▲ 内部留保は潤沢とは言えないものの、好業績が続いており、今後も借入を順調に返済し
得るだけの利益(キャッシュフロー)を確保する可能性が高いこと
なお、法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る財務基盤の目安としては、
実質実質自己資本比率が20%以上、または、実質債務償還年数は10年以内
などが考えられます。
透明性の確保
「透明性の確保」については金融機関からの求めに応じて、融資判断において必要な情報の開示・説明をすることが求められます。
具体的には、以下のような対応が必要となります。
▲ 貸借対照表、損益計算書の提出のみでなく、これら決算書上の各勘定明細(資産・負債
明細、売上原価・販管費明細等)を含めた資料の提出
▲ 期中の財務状況を確認するため、年に1回の本決算の報告のみでなく、試算表・資金繰
り表等の定期的な報告
なお、資料提出期間については、少なくとも6ヶ月ごとに試算表や資金繰り表等の資料の提出をすることが目安となります。
最近の金融機関の考え
以前の金融機関では経営者保証を取ることを前提としていましたが、最近では以下のように考え方が変化しており、これが保証解除を進める追い風となっています。
※ 「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る組織的な取組み事例集
| ▲ 経営者保証による債権の回収額は僅かであり、経営者保証が無くても銀行の経営面への影響が少ない ▲ 保証徴求の判断や回収に要する時間を、顧客とのリレーション構築に使った方がよい ▲ 取引先の多くが中小・零細企業であるため、ガイドラインの要件を満たさない場合が多く、ガイドラインをそのまま適用するとほとんどの取引先に経営者保証を求めることになる。 ▲ 経営者保証を求めても、ほとんどの場合で保証人からの回収を行うことができな いため、債権保全としての機能はあまり果たされていない。 ▲ 営業店職員に経営者保証に依存しない融資の考え方が浸透し、事業性評価に基づく融資が実践されてきている。 |
公認会計士協会による具体的検証のポイント
日本公認会計士協会では『「経営者保証に関するガイドライン」における法人と経営者との関係の明確な区分等に関する手続等について 』を定め、①の法人と経営者との関係の明確な区分・分離について、検証手続を行う際のポイントを示しています。
以下では、その代表的なものをご紹介しますので、実務での参考にしてください。
| ▲ 法人の事業活動に必要な本社・工場、営業車等が法人所有となっていることの確認 ▲ 法人が納税義務者となっているか固定資産評価証明書との照らし合わせ ▲ 法人と経営者間の賃貸借契約の内容に関して、賃貸借契約書との照らし合わせ ▲ 法人を債務者とする担保権の設定について内容の照らし合わせ ▲ 現在の賃料水準が、社会通念上妥当な範囲であるかどうかの確認 ▲ 賃貸借契約を承認する取締役会議事録が開催されているかの確認 ▲ 自宅兼店舗の場合には、自宅部分と店舗部分の区分を確認 ▲ 法人と個人の一体性の解消に疑念が生じる下記取引の有無の確認 ①価格、金利、保証又は返済条件等につき、異常な条件を有する取引 ②事業上の合理性が欠如している取引 ③取引上の実態が形式と異なる取引 ④経営者と法人との間の不動産等の取引 など ▲ 経営者向け実質的な貸付金がある場合は、金銭消費貸借契約書及び返済計画書等を確認 ▲ 役員報酬の決定に関する社内規程の整備の有無の確認 ▲ 取締役会が、現実に毎月(又は3か月に一度)開催されているかの確認 ▲ 経営者による資金流用が発生しないように、現金、預金通帳及び法人キャッシュカードは、経理担当者が管理する体制ができているかの確認 |
経営者保証解除が難しい場合の代替手法
現在、一部の金融機関では、そのままでは保証解除が難しいケースにつき、以下の代替的融資手法を活用した取り組みを強化しています。
そのため、現状では要件的に保証解除ができない場合でも、金融機関の理解が得られる場合はこれらの手法を利用できる可能性があります。
(1)金利上乗せ
(2)停止条件付保証契約の締結
停止条件付保証契約とは、法人が延滞などの特約条項(コベナンツ)に抵触しない限り保証人が責任を負わない保証契約の締結
(3)解除条件付保証契約
解除条件付保証契約とは、法人が複数期で黒字などの特約条項を満たす場合は、保証債務が効力を失う保証契約
(3)ABL
ABLとは、企業が保有する在庫や売掛金等を担保とする融資手法
まとめ
現在、国は経営者の保証によらない融資を進めていますが、既存の保証契約の解除を金融機関に認めてもらうためには、法人と個人資産の分離などの要件を満たす必要があります。
具体的にどのような対応をすればよいかについては、ガイドラインだけで読み取ることが難しいですが、ガイドラインのQ&Aや公認会計協会の指標などをあわせて読むことで、具体的な行動のイメージをつかむことができます。
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